第二章:Sクラス補助魔法使いの覚醒

年商800億企業で磨いた「支援魔法」

高校卒業後、フリーター、専門学校を経て、私は、自動車ディーラーのホンダに整備士として入社します。

それは、苦手克服のための戦略的投資でした。

「苦手な機械いじりを、仕事にすれば克服できるだろう」

高校時代の考え方の延長線上にある考え方です。

「やらざるを得ない環境に、自分を置けば、自ずとスキルは身に付く」

おかげさまで、最終的には一人で年間700台の新車整備をこなすまでになりました。

しかし、首のヘルニアという突然の転機により、整備士の道を断たれる可能性に直面します。

退職も覚悟で直訴し、与えられたのは異例の「男性業務スタッフ」というポジションでした。

膨大な仕事を1ヶ月で覚えるという厳しい環境の中、私は仕事の「本質」を解き明かすことに没頭。そこで目の当たりにしたのは、現場に存在する数々の「非効率」でした。

私は全社共通で使用されていたExcelデータを独自に改良を加えます。

基幹となるデータを作成し、一度の入力で別のシートにも参照・活用できる仕組みを構築したのです。

(この仕組みが、俗にいう「マスタデータ」連携というのものだと知ったのは、私がホンダを退職した後のことでした。)

結果、店舗で顧客対応を行いながらも、誤りのないデータ入力を求められるという、これまでは非常に精神的負荷の大きい業務に改革をもたらし、データ誤りによる差し戻し率は1/10に激減しました。

当初は本社から「本社データを改造するな。」と叱責も受けましたが、その圧倒的な効果は従業員の間で広まり、多くの店舗で使われるようになったのです。

ルールを鵜呑みにするな。本質を見極めろ。

小学生の頃の哲学が、会社組織の中で証明された瞬間でした。

本質さえ守れば、過程はもっと自由になる。

仲間を輝かせることで、パーティーは最強になる

やがて部下を持ち、私が徹底したのは「全てのメンバーが本来やるべき仕事に集中できる環境を創る」こと。結果、私の部署の離職率は0%になりました。

営業に転身すれば新人トップの成績も記録しましたが、整備から経理、コンプライアンスまで経験した私のもとには、部署を問わず質問が殺到。自分の営業時間は削られる一方、私を頼る仲間たちは次々と成果を上げていきました。

当時私の気持ちはというと、もちろん穏やかではなかったのですが、のちに本当に大切にすべき自分の価値に気づきます。

それは「私が関わることで、その人や組織のパフォーマンスが劇的に上がる」こと。

そう。私は、自ら前線に立ち、剣を振るう「ゆうしゃ」ではない。

仲間全員に最高のバフ(支援効果)をかけ、パーティー全体の戦闘力を底上げする、Sクラス補助魔法使いだと。

この哲学は、やがて店舗に過去最高の収益をもたらすことになります。

当時、営業スタッフは契約書の些細な不備(印紙代の印字漏れなど)に頭を悩ませていました 。不備があれば、お客様に頭を下げて契約書を再作成いただく必要があり、これは失注のリスクすらある、極めてストレスの大きい業務です

しかし、そこで私は疑問を覚えました。

営業スタッフの「本質的な仕事」は完璧な書類を作ることなのだろうか?

お客様に製品の魅力を伝え、一つでも多くの契約を獲得することでは…。

そこで私は、「契約書がお客様に渡る前の最終チェックを、すべて自分が引き受ける」という仕組みを提案しました。

私の見落としがあれば、全責任を負って自分でお客様に頭を下げる覚悟で。

結局、仲間たちの倫理観から、その役目を私が背負うことは実現しませんでした。

しかし、本当に重要な変化は、別のところで起きていたのです。

職種を超えて「そこまで責任を負おうとする人間がいる」という事実が、営業スタッフたちの心に火をつけた…。

「あいつに頼りっきりではダメだ」と。

結果は明白でした。

私が創り出した「失敗を恐れず、仲間を信じられる」という心理的な仕組みは、営業全員の熱量を上げる「バイキルト」となり、店舗は過去最高の収益を記録したのです。

戦闘を予見したとき、補助魔法は既にかけられている

Sクラス補助魔法使いの真価は、問題が起きてから対処するヒーラー(回復役)ではありません。

そもそも戦闘でダメージを受けない状況を作り出すことにあります。

多くの組織は、問題(モンスター)に遭遇してから戦い始め、疲弊します 。しかし、それではマイナスをゼロに戻す消耗戦に過ぎません。

私がいた拠点でトラブルがほぼなく、極めて忙しい中でもスタッフが笑顔で最高の収益を上げていたのは、まさにこの補助魔法が常時かかっていた証です。

私は問題の芽を事前に感じ取り、静かに摘み取っていたのです。

しかし、残念なことに、この魔法は目に見えません。

私が拠点を去った後、トラブルが多発したという事実があっても、その平穏が「誰かの仕事」によって守られていたとは、多くの人は気づかないのです。

あるクライアントから言われた、忘れられない言葉があります。

長期的な契約を行なっていただけたことから、盤石な体制を整え、組織が安定し始めた頃のことでした。

「眞鍋さんは最近、一体何をしているんですか?何もしてないじゃないですか。」

それは、補助魔法使いにとって、最高の賛辞であると同時に、最も悲しい言葉です

だから、私は決めました。

この「何も起きないこと」の価値を、

共に信じてくれる経営者(個人事業主)とだけ仕事をしよう、と 。

あなたの冒険の目的は、日々の戦闘(問題)に勝利し続けることでしょうか?

それとも、パーティーの力を温存し、本来の目的である「大魔王の討伐(ビジョンの達成)」を成し遂げることでしょうか。

私は、本当の目的を見失わない「紛うことなき勇者」を探しています。